紅牙

矜持

紅牙タイラバ編

タイラバの誕生

獲物にそっと近づき、瞬時に食らいつく。鯛の捕食行動は繊細、かつ賢い。そんな鯛を「タイラバ」で釣り上げるためは、口に近いタイラバはもちろん、実はロッド選びが重要である。第一に、ロッドにはしなやかさが求められる。硬いロッドでは鯛がラバージグに食らいついた際に違和感を感じ、すぐに口から離してしまう。鯛は非常に用心深い。だからこそロッドには、鯛の口にしっかりと針が食い込むまで針先の違和感を感じさせない、しなやかさが必要なのだ。第二に求めるべきは、パワー。狙うのは大物。大鯛を不安感なく釣り上げられるパワーが必要である。そこで『紅牙』は、タイラバロッドに求められるあらゆるデータを徹底分析。現状考えられる中での最適なロッド構造を導きだした。カーボンフルソリッドのメガトップ(スリルゲーム)やX45 などのダイワが誇るカーボン技術の採用はもちろんのこと、特筆すべきはスーパーメタルトップの採用。しなやかさと感度、そして強度と相反する性能を武器とするメタル素材を竿先に採用したことで、鯛に違和感を与えず、かつパワーを保ちながら「タイラバ」を愛するすべてのアングラーに微塵の不安感なく大鯛を釣り上げてもらえる設計を行った。“多くのアングラーに鯛釣りの魅力を体感して欲しい。” その強い信念に基づき、『紅牙』のタイラバロッドは設計上のさまざまな工夫を経て、その性能を実現したのである。

紅牙ベイラバーフリー開発スタート

DAIWAがタイラバへの本格的参入を目指すにあたり、タイラバの開発は最重要課題であったと言ってよい。タイラバ開発担当者である古谷は、これまでの市場にはない、新発想のタイラバを開発することを自らに課した。その当時タイラバは、ヘッドとラバー及びフックが一体化した固定式が一般的だった。そんな中、針とヘッドが分離する中通しタイプの遊動型タイラバが北九州の宮崎船長によって考案され、フッキングが難しかったタイラバはバラシが少なく、掛けやすい釣りとして九州から徐々に広がりを見せ始めていた。
“遊動の時代が来る。”確信した古谷は、このタイプをベースに開発をスタートさせた。
重点ターゲットエリアを激戦区として名高い東京湾観音崎近海に求めた。大型の真鯛がいることは分かっていながら、なかなかタイラバで釣り上げられない難関ポイントだったからだ。“シビアなこの場所で釣れるタイラバを開発すれば、全国で通用するタイラバが展開できる。 ”
そういう確信が彼にはあった。

複雑な流れを制するヘッド形状の追求

まずは、当時発売されていた遊動式タイラバをベースにイメージを膨らませ、丸い形状のヘッドを作ってみた。
その当時、“まあ、どうせオモリだし、丸くて沈めば何とかなるでしょ”的な甘い考えがあったのは、否めない。と古谷は振り返る。
イメージだけで作り上げたタイラバを持って意気揚々と観音崎沖にテストに出かけた古谷は、東京湾でタイラバを真剣にやっているふたりの船長の船に乗り、そのタイラバを実際に二人同時に使ってもらってテストしていた。一緒に釣りをしながら、ふたりは古谷の前で当たり障りのないコメントを述べ、古谷自身、釣りしながらも“ほぼこれで大丈夫じゃないかな。”とぼんやり思っていた。
しかしその直後船長同士のひそひそ話が何気なく聞こえてきてしまったのだ。

I船長「お前、コレ買うか?」
U船長「いや、買わねぇなあ。落ちるのが遅いから、今までのやつでいいや」
その思いもかけなかった言葉に、一瞬息をのむ、古谷。
すっかり出鼻をくじかれ、意気消沈したのもつかの間、彼は、船長に
“トンカチありますか?お願いです。貸してください。”と頼んだ。
彼は、その金づちを使っていきなり玉の底を叩きだしたのだ。鉛の丸底を叩きだして船底型に変形させ、より落下スピードの速い球にならないかと考えたのだ。
現場で叩くという行動に出た古谷は、叩いたやつの方が、明らかに落下が早いということを身をもって体感することとなる。もともとのめりこむ性格の彼は、それから何週間もの間、ほぼ毎日のようにこの船に通い、鉛を叩いては沈め、引き揚げては叩いてを執拗に繰り返した。のちに開発担当者は“この日の船長たちの言葉があったから、いまの『紅牙』がある”と振り返って感謝する。

こだわりのセラミックパイプ

一方、古谷は現在では当たり前になった完全遊動にもこだわった。
“より繊細なあたりに対応するためには、魚が引っ張った時にスムーズに動くように結び目はヘッドの後ろにあったほうが良いに決まってる。すなわち完全遊動が理想的なんだけど、今の鉛素材に穴をあけただけのヘッドだとリーダーを傷つけるからパイプは、工夫しないとだめだろうなあ。”
と考えていた。そのためには中通しのパイプを工夫する必要があったのだ。
そこで真っ先に取り組んだのは、ヘッドの穴だ。糸にやさしいパイプを通すことで解消できるという推測はしていたので、セラミックパイプに目を付けた。かつて磯釣り用の円錐ウキの開発にも携わっていた古谷は、過去の経験からセラミックパイプを採用した新しいカタチに手ごたえを感じていた。

しかし、ここでも問題が発生する。信頼していたはずのセラミックパイプに糸滑り性能で十分な性能が出ていないものが混入していたのだ。そこで安定的な滑りを実現するためにはどうしたらよいか?様々な方面にこの問題を解決する糸口を探していた古谷は、歯医者の友人Sから“セラミックの歯がピカピカなのは、セラミックの表面に釉薬を塗って焼き付けているからだ。”というヒントをもらう。ただ細いパイプの中に粘性の高い釉薬を塗るのは至難の業。ここでも大きな壁にぶち当たる。現場に飛び現地のスタッフと一緒に日々どうすればよいかを考えたが、どの方法も決定打に欠け悩んでいた。そんな折、やけになってチョンとパイプの端に釉薬をつけてフッとパイプに息を吹きかけたら、ぱあーと均一に内面に釉薬が広がったのだ。
“これだっ!”
満塁逆転ホームラン。最高の滑りを実現したセラミックパイプが誕生した瞬間だった。

紅牙ブランドには、物語がある。

ようやく発表段階にこぎつけた『紅牙』。カタログ撮影を兼ねた最終テストのため、タイラバを得意とする全国のテスターたちを観音崎に集結させ撮影を行った。“『紅牙』ブランドを冠するタックルたちが彼らのテクニックで息を吹き込まれる瞬間を収めるのだ。”古谷の鼻息も荒かった。

だが・・・予測に反してロケ当日の鯛の活性は、全く上がらない。ほとんど反応がないまま一日が終わろうとしていた。残念ながら、こういうシビアな日があるのも“釣り”ではある。“なぜ、こんなにシビアな日がよりによって今日なのか。”全員の祈りに似た気持ちと裏腹に終了時間が迫る。これで最後と決めたひと流し・・・・想いは通じた! 佐々木修に握られたロッドは、いまだかつて無いほどの弧を描き、紅牙リールからはすごい勢いでラインが引き出される。上がってきた魚体は悠に4キロを超える紅の牙だった。船上に横たわる魚体を前に同船した全員が歓喜に溢れた。真の意味で『紅牙』が誕生した瞬間といってよい。一尾の真鯛が『紅牙』に確信を与えてくれた。開発担当者は自然にあふれ出る涙を止められなかった。“想いが力になる”『紅牙』は間違いなく、想いを力に変えるタックルである。

そしてここに、新世代のタイラバが誕生した。ベイラバーフリーシリーズは、鯛の真髄に迫る『紅牙』の象徴ともいえるアイテムである。徹底的に鯛を研究し、同じく徹底的にアングラーの気持ちを汲み取った渾身のタイラバ。このこだわりをぜひ体感していただきたい。